COP30を踏まえ、国際的な気候変動対策への米国の関与とエネルギー対策を考える

 

地球環境戦略研究機関(IGES)

気候変動ユニット

リサーチディレクター 田村 堅太郎

 

 2025年11月にブラジルで開催された気候変動枠組条約(UNFCCC)第30回締約国会議(COP30)では、パリ協定のルール作りを巡る「交渉」から「実施」に軸足を移すことが強調された。しかし、温暖化レベルを工業化以前と比して1.5℃以下に抑えるという目標(1.5℃目標)の実現が危ぶまれているにもかかわらず、各国の排出削減目標の提出は低調であった。また、排出削減努力の強化に向けた具体的な議論や脱化石燃料に向けた工程表の作成も合意されなかった。かわりに、化石燃料からの脱却を謳った過去のCOP合意に言及しつつ、その実施を加速するという内容となった。また、COPの枠外で、議長国ブラジルが有志国と工程表を検討し、2026年11月に開催されるCOP31に報告することとなった。化石燃料脱却に直接的に言及せず、COPの枠組みの内外で、その目的に沿った実質的な取り組みを進めていこうとする議長国ブラジルの苦心のあとが見られた。全般的に評価が低かった成果の中の一縷の望みといえる。

 

 しかし、COP30での議論やその他の国際的な気候変動対策における停滞感は否めない。その背景には、世界最大の経済大国である米国が、第2次トランプ政権のもとでパリ協定から再離脱したのみならず、さまざまな多国間協力から距離をおいていることがある。ここでは、トランプ政権の気候変動対策に関する多国間協力への関与の仕方、およびそのエネルギー政策の国内外の影響について考察する。

 

 

気候変動対策の多国間協力:第2次トランプ政権による無関与と妨害

 

 第2次トランプ政権は、気候変動に関する国際的な取り組みに対して一貫して後ろ向きの姿勢をとっているが、その関与の仕方は「関与無し」から「妨害」までと幅がある。「関与無し」の立場をとるのは、締約国数が198か国・機関に上る多国間枠組みであるCOPである。米国政府は、2025年6月の補助機関会合に続き、COP30にも代表団を派遣しなかった。参加しなかったため、COP交渉を「妨害」することはなかったが、米国の不在は、バイデン政権下で米国代表団が果たしてきたような、サウジアラビア等の「声の大きい」国々への「押さえ」がなくなったことも意味した。これは、COP30において、先進国の責任を追及し、先進国と途上国間の対立軸を際立たせる立場をとる一部の途上国から成るグループ(ここにはサウジアラビア、インドや中国が含まれる)の声が強く反映されることになり、交渉が硬直化し、難航する一因となった。

 

 2026年1月27日に米国はパリ協定から正式に再離脱した。さらに、2026年1月7日には、トランプ大統領はパリ協定の親条約であるUNFCCCからの脱退を指示する大統領令に署名した。UNFCCCとパリ協定はともに国際条約であるが、米国内においては扱いが異なる。UNFCCCが連邦議会上院の同意(助言と承認)を得て批准した上院批准条約である一方、パリ協定はUNFCCCを実施するための協定として大統領の専権で結べる(つまり、大統領令によって結べる)行政協定として位置づけられている。そのため、パリ協定からの脱退を大統領令で行うことは法的な問題はないが、上院批准条約であるUNFCCCからの脱退を大統領令によって行うことには法的不確実性がある(ただし、前例はある)。現時点で、米国政府は書面によるUNFCCCからの脱退通告を行っておらず、今後の動向が注目される。いずれにせよ、COPに対する無関与は継続すると思われる。

 

 このようなトランプ政権下の連邦政府レベルでの動きに対抗する非国家主体の取り組みが米国内で起きている。第1次トランプ政権がパリ協定からの離脱を決定した際、地方政府、企業や民間団体による「We Are Still In(我々はパリ協定にとどまる)」などのイニシアチブが活発化した。2024年11月のトランプ氏再当選を受け、「We Are Still In」の後継である「America Is All In(5000以上の企業、地方政府、諸団体によるイニシアチブ)」、「U.S. Climate Alliance(超党派の24州知事による同盟。30年50-55%削減(05年比)、50年ネットゼロ達成を目指す)」、「Climate Mayors(350超の市長による超党派ネットワーク)」が引き続き、パリ協定や積極的な脱炭素政策を支持し続けることを表明した。連邦レベルでの政策も将来、大きく変わる可能性もあることも考えると、日本にとっては、米国の非国家主体のこうした取り組みとの国境を越えた連携が重要となる。

 

 他方、米国による「妨害」の典型例は、2025年10月に国際海事機関(IMO)で採択が予定されていたネットゼロ枠組み(NZF)の拒否である。国際海運は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の3%程度を占めるが、各国の国別排出削減目標の対象外である。そのため、IMOが主導し、2050年ネットゼロをめざして、船舶の使用燃料のGHG排出規制を含む国際枠組みであるNZFを策定した。NZF の前提となる「2023 IMO GHG削減戦略」は全会一致で採択されていた。しかし、トランプ政権は、NZFが「事実上の世界規模での炭素税」であるとして反対を唱え、サウジアラビアやロシアの同調もあり、最終的に採択延期となった。反対理由として、NZFにより海運・物流コストが上昇し、米国民が不利益を被ること、NZFの排出基準が米国が強みを持つ液化天然ガス(LNG)を排除すること、などを挙げている。そして、NZF支持国に対しては、当該国に登録された船舶の米国港湾への入港禁止、港湾使用料の追加徴収、乗組員に対するビザ制限などの報復措置を示唆し、強硬な外交手段をとった。このように、米国第一主義に反する取り組みとみなした場合、直接的な「妨害」を行っている。

 

 米国はUNFCCCを含めた66の国際条約・国際機関からの脱退・離脱を表明しているが、IMOは含まれていない。国際海運の基盤であるIMOから離脱すれば、自国企業に不利益が生じうる。そのため、IMOに残留しつつ、影響力を行使することで、経済的損失を回避しようとする姿勢の表れであると見られる。そのため、今後もNZFが採択されるかは見通せない。

 

 しかし、日本は国際海運におけるネットゼロ達成に向けた国際的な取り組みを見こして、官民を挙げてアンモニアなど新燃料船の生産体制増強に動いており、そのような国際的な取り組みを支えることは自らの利益となる。そのために、ネットゼロの取り組みを支持するさまざまな主体と協力を強化していくことが重要となる。例えば、パナマ運河庁は2025年11月、脱炭素化を推進するための「ネットゼロ・スロット」枠での通航を開始している。これは、重油等の従来燃料と、アンモニア、メタノール等の低炭素燃料を併用できるデュアルフューエル船等に対して優先的な通航権を与えるものである。日本もこうした取り組みを強く支持・支援することで、ネットゼロに向けた機運を維持することが求められる。

 

 

エネルギー政策:石油国家(Petro-State)としての米国

 

 気候政策、なかんずくGHG排出削減政策と表裏をなすエネルギー政策からみると、トランプ政権下の米国はあたかも石油国家(Petro-State)として振舞っているといえる。石油国家とは、化石燃料の生産・価格・輸出の支配を通じて経済的・地政学的な影響力を行使する国を指す。2000年代に本格化したシェール革命(従来、商業的な採掘は困難とされていたシェール(頁岩)層の天然ガスや原油が技術進展により大規模な商業採掘が可能となったこと)により、米国は世界最大の天然ガスおよび原油の産出国となった(表1、表2)。そして、純エネルギー輸出国となり、特に、LNGの最大輸出国である。トランプ政権はこの立場を踏まえ、化石燃料の国内増産および輸出拡大を経済成長・雇用促進、さらに外交手段として活用することを目指す「エネルギー支配 (Energy Dominance)」戦略を打ち出している。

 

 

 このエネルギー支配戦略は、第1次トランプ政権の時に既に掲げられていた。2017年6月末(パリ協定からの離脱を表明したのは同年6月1日)の演説の中で、国内の化石燃料増産や輸出拡大によって「エネルギー自立に加えて、エネルギー支配を目指す」という方針を打ち出した。関連する国内規制の緩和や撤廃による増産を試みると同時に、米国産LNGや原油の購入をトランプ大統領自らが海外首脳への働きかけ、圧力をかけた。

 

 第2次トランプ政権においても、この戦略は継続されている。2024年11月の大統領選挙後の演説の中で、「米国のエネルギー支配により、インフレを抑え、中国などとの人工知能(AI)開発競争に勝利し、米国の外交力を拡大して世界中の戦争を終結させる」とし、安価な国内エネルギー供給により、国内のインフレを抑制するとともに、AIなどの電力消費産業の競争力を高め、中国との競争に勝利することを目指す、そして、自国エネルギーの輸出拡大により、敵対国が資金源としているエネルギー輸出を低減させ、戦争・テロを終結させる、といった方向性を示した。

 

 現時点で、エネルギー支配戦略が描くような形での成果が得られていると言い難い。まず、戦争・テロの終結についてみると、ロシアは依然、さまざまな形でエネルギー輸出を続けており、ウクライナ戦争の継続能力を失っていない。

 

 国内の電力需要拡大に対しては、大規模な電力供給能力を最も早く、最も低コストで上積みできるオプションである再生可能エネルギーと蓄電池の組み合わせを軽視、あるいは敵視している。トランプ政権は、データセンター等による電力需要拡大に対してガス火力発電所の新設や、閉鎖を表明している石炭火力発電所の稼働継続を訴えている。その一方で、2025年7月に減税・歳出削減法(One, Big, Beautiful Bill)を成立させ、バイデン前政権がインフレ抑制法(IRA)の下で進めた再生可能エネルギーの導入促進等に向けた税控除・補助金の大幅削減、あるいは適用期間短縮を行った。さらに、洋上風力発電開発の新規プロジェクトの許可停止(2026年1月に、裁判所により3つのプロジェクトについての作業停止命令が差し止められた。残り2件は係争中)など、さまざまな手段を用いて再生可能エネルギー導入を遅らせている。

 

 しかし、米国エネルギー情報局(EIA)の最新のデータでは、2024年までは天然ガスと太陽光・風力が米国における発電量増加に貢献してきたが、今後2年間は太陽光発電が発電量増加をけん引することを示している。これは、ガス火力はタービン供給制約で新規運転は2028年以降となり、稼働までのリードタイムが伸び、建設コストも大幅に増加する傾向があるのに対し、再生可能エネルギーのコストもインフレ等により上昇するが、相対的には依然競争力を持つためである。再生可能エネルギーへの支援打ち切り、あるいは過度な規制は、データセンター等による電力需要拡大に対する有効な供給力を削ぐことになる。

 

 

 米国産LNGの輸出拡大や米国内の化石燃料資産への投資促進の動きについては、相互関税を梃にして進んでいる。特に、安全保障の面や経済面で米国と深く結びついているアジア諸国においてその動きが顕著である。韓国は高関税を回避するために米国産LNGを含むエネルギー製品を1,000億ドル購入することで同意した。ベトナム、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンなども米国産LNG輸入拡大に合意、あるいは合意に向けた調整を行っている。日本は、日米関税交渉で合意した5,500億ドル(約84兆円)の対米投融資の第1弾となる3つのプロジェクト(計360億ドル)を発表し、そのうち2つがガス火力発電所(333億ドル)、原油積み出し港整備(21億ドル)となった。(米連邦最高裁は2026年2月20日、トランプ大統領の相互関税に対して違憲との判決を下したが、執筆時点において、米国との合意事項の見直しを求める各国政府からの動きは確認できていない。)

 

 このようなLNGの利用拡大は、特にベトナムやインドネシア、韓国、そして日本といった石炭が電源構成の中で一定以上の役割を占める国々において、石炭火力からのシフトを促すことに貢献する可能性はある。しかし、LNG利用拡大は、パリ協定が目指す1.5℃目標の実現に必要となるエネルギー変革の足かせとなりうる。つまり、LNG利用を現時点で拡大しつつ、1.5℃目標に整合的な排出経路をとるためには、炭素回収貯留(CCS)技術の装着や水素火力への転換など、現時点では十分に商業化されておらず、不確実性の高い技術への依存を高めることになる。

 

 さらに、より広いエネルギー変革や地政学的観点から、英紙フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ジリアン・テットはトランプ政権のエネルギー支配戦略を「時代錯誤」と喝破している。再生可能エネルギーや蓄電池が劇的に安価となった21世紀において、多くの国は多様なエネルギー源を手に入れることで、経済システムの強靭性を高めることができ、実際、その方向へ進んでいる。さらに、データセンターなどで急増する電力需要への対応も、リードタイムの短い太陽光発電と蓄電池の組み合わせが最適解となりうる。そして、電気へのアクセスを持たないアフリカや南アジアの農村部では、化石燃料火力と送電網の延伸ではなく、オフグリッドあるいはミニグリッド型太陽光発電が電化の切り札となっている。こうしたエネルギーシステムの地殻変動の中心にいるのが中国である。トランプ大統領の化石燃料に偏重したエネルギー支配戦略は、21世紀のエネルギーインフラを構築するうえでのソフトパワーを中国に明け渡すことにつながっている。

 

ここでいう21世紀型のエネルギーインフラにも多くの課題もある。中国への過剰な依存、変動性再生可能エネルギーの大規模導入の下での安定的な系統運用、輸入機器の保守点検、将来の廃棄・リサイクル問題など、多面的な課題に直面することになる。米中以外の国々は、米国と中国が志向する異なるエネルギーインフラが持つそれぞれの課題を理解しつつ、国情に応じた対応をすすめることが必要となる。

 

 

おわりに

 

 2023年から2025年は観測史上最も暑い3年間となり、世界で高温、熱波、多雨、少雨などによる甚大な気象被害が発生した。まさに排出削減対策の加速に向けてアクセルを踏み込まなければいけないタイミングで、トランプ政権はブレーキを踏んでいる。しかし、地球温暖化を止めるためには温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにしなければならないこと、そして温暖化レベルを低く抑制するためにネットゼロが達成されるまでの累積排出量をなるべく少なくしなければならないという科学的知見は、政治的信条にかかわらず不変である。また、 トランプ政権のエネルギー政策の根本的な問題点は国内外ですすむ再生可能エネルギーを中心としたエネルギー変革の流れに背を向けていることである。このようなスタンスはいずれ壁にぶつかるであろう。日本は米国の政治サイクルに惑わされることなく、ネットゼロに向けて排出削減行動を強化させていくことが重要である。