SDGsの取り組みに求められる目線

 

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科

 准教授 牟禮 恵美子

 

 2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた17の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)は、2030年に向けた各国政府の目標ではあるものの、ビジネスの世界でも関心が高まっている。それを象徴するかのように、企業のホームページやサステナビリティ報告書などでも、17色のロゴをよく見かけるようになった。このように、ビジネスの世界が盛り上がりを見せている一方で、実際のSDGsの目標達成については、厳しい見方がされている。

 

 スタートから3年目を迎えた2018年の報告書では、10年前よりも改善はしているものの、目標を達成できる速度では進んでいないことが示されている。(図表1)は報告書で示された数値のうち、近年悪化の傾向がみられるものを抽出した。

 

(図表1)SDGs 2018年報告(悪化傾向がみられるもの)

目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ。
災害により生じた経済的被害 2017年3,000億ドル超(近年で最大の被害額) 
目標2:飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する。
全世界で栄養不良状態にある人の割合

2016年11%(8億1,500万人)。

2015年の10.6%(7億7,700万人)から上昇

開発途上国の農業への援助総額 2016年125億ドル。全ドナーの部門別に割当可能な援助額の割合は1980年代半ばの20%から6%へ減少
目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する。
マラリア症例 2016年2億1,600万人。2013年の2億1,000万人から悪化
目標8:すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する。
1人あたり実質国内総生産(GDP)の全世界の成長率 2016年1.3%。2010年から2016年の平均成長率1.7%より低下
目標13:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る。
世界の平均気温 2017年は観測史上最も暖かい3年のうちの一つ(2013年から2017年の5年間の世界平均気温は史上最高)
目標14:海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する。
海洋酸性化度 現在までに約26%上昇
目標15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る。
絶滅危惧種のグローバル・レッドリスト指数 1993年以来、0.82から0.74へと低下
生物多様性保全に対する二国間ODA総額 2016年70億ドル。対2015年で実質21%減少
目標17:持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。
正味ODA総額 2017年1,466億ドル。2016年よりも実質ベースで0.6%下回る(ドナーの国民総所得(GNI)に占める割合は0.31%)
LDCs(後発開発途上国)の財・サービスの輸出に対する債務返済比率 2016年8.6%。2011年3.5%から上昇 

出典:国際連合広報センター「持続可能な開発目標(SDGs)報告2018」より作成

(https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/)

 

 特に、気候変動や紛争の増加などが複合的に絡みあって、様々な問題を生じさせていることが影響している。また、(図表1)はあくまで悪化しているものだけを抽出しているが、改善の傾向はみられるものの、依然として厳しい状態にあり、2030年の目標達成が困難と思われる多くの項目が存在する。SDGsの取り組みを表明する企業は、単なるビジネスチャンスとしてではなく、この目標達成にいかに貢献できるのかを改めて考えることが重要であろう。

 

 SDGsは、「あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」という最終目的を達成することをめざしている。全ての国が対象とはなっているが、やはり、その主眼は、低開発国における基本的な生活水準の向上や経済成長である。SDGsは、経済成長、社会的包摂、環境保護という3つの主要素の調和を求めているが、それはすべてが相互に関連しているからであり、総合的な取り組みが求められているゆえんである。

 

 企業がSDGsに取り組む際、17の目標に対して、企業活動をマッピングするということから始めるケースが多いと思われるが、その際、最もプラスに影響する目標に目がいきがちとなるのではないだろうか。しかし、通常は、プラス面だけが存在するということはなく、何らかのマイナス面が生じることも多いだろうし、その強弱も様々なレベルとなっているだろう。17の目標を広く視野に入れ、複眼的に見直してみると、最終的な目的に真に貢献する活動がみえてくるのではないかと思われる。先進的にサステナビリティに取り組んできた企業には、ぜひともそのようなSDGsの取り組みを期待したい。