環境情報開示基盤プラットフォームついて

 

サステナビリティ日本フォーラム

代表理事 後藤 敏彦

 

 環境省は中環審の議論をうけて、2011年に環境報告ガイドラインの改訂検討会を2つに分割し「環境情報の利用促進に関する検討委員会」を立ち上げた。筆者はその委員長を務めさせてもらった。下部に「情報通信技術(ICT)を利用した情報開示基盤」分科会を設置し、その必要性を取りまとめた。

 

 翌2012年には安井至委員長の下「環境に配慮した事業活動の促進に関する検討委員会」が立ち上げられ、ここでも情報開示基盤の必要性が議論され、有価証券報告書等で日本が2008年から使用義務化を決めて実施しているXBRL*1を使ったデモンストレーションも行われた。筆者も委員として参画した。

 

 これらを受けて2013年からXBRLを活用する「環境情報開示システム試行事業」が2年を目途に立ち上げられ、NTTデータ(株)が落札し開始された。XBRLのメリットはさまざまであるが、転記による情報劣化がないということは大きい。この事業には「有識者検討会(ワークショップ)」と称する諮問的機能を設置し、筆者は座長を務めさせてもらった。

 

 初年度は「情報開示基盤の基礎の構築、2年目は「情報開示基盤の機能の拡張」、最終年は「連携機能の実現」ということで、報告フォーマットの策定*2、コミュニケーション機能の追加や改善等々、システム的な改善を行い大きな成果を挙げたものと考えている。特に最終年は発信側、読み手側の合計で300団体以上が参画され、2016年3月1日に開会された成果発表セミナーは高揚した熱気に包まれていたこと記憶に新しい。特筆すべき一つには、世界的に活用が進んでいるCDP*3のCO2情報との互換性をもたらしたことがある。

 

 さて、この間に世界と日本における情報開示の世界には大きな激動が起こり今も続いている。 まず世界では、2013年5月にGRI*4がサステナビリティ報告ガイドラインG4(第4版)を発行、2013年12月には国際統合報告評議会(IIRC)が初の統合報告フレームワークを公表している。2014年10月にはEUが会計指令を改訂し、少なくも環境・人権・労働・腐敗防止等の非財務情報の開示を義務化した。この間、欧州ではESG投資が全投資の6割、米国でも3割に達したとの調査*5もある。

 

 日本は、こうした動きに周回遅れの状況にあつたが、かろうじて間に合う様々な動きが始まっている。まず、2014年2月に金融庁はスチュワードシップ・コートを公表し機関投資家等に署名を求めた。現時点で200団体強の機関投資家等が署名している。中長期の発展に向け事業会社との建設的対話等を求めている。また、金融庁と証券取引所はコーポーレートガバナンス・コードを公表し、パブコメを経て2015年3月5日に確定している。中長期の発展に向け機関投資家等とのESGを含め建設的な対話等を求めている。

 

 東京証券取引所は東証1、2部に上場している2500社強に2015年6月1日以降の株主総会から6月以内にコーポレートガバナンス報告書発行を義務付けた。この報告書作成言語もXBRLが義務付けられている。2015年9月には世界最大の年金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(UN PRI)に署名しESG投資に舵を切り替えた。これらが本事業の追い風になっていることは間違いない。

 

 さて、本年度であるが情報開示基盤整備事業の本格実施へステージをあげ、「企業と投資家等が幅広く集い、 豊かな対話が実感できるプラットフォームの構築」をスローガンに、有識者会議として「事業者と投資家との対話促進ワーキング・グループ(筆者が座長)」が立ち上げられている。本事業参加へのプロモーションも兼ね、6月20日にバージョンアップしたポータルサイト*6を公開している。

 

 環境省は、「パリ協定から始めるアクション50-80~地球の未来のための11の取組~」の5番目の取組の中で、「ESG投資の促進」と「環境情報開示システムの運用」を取り上げている また、国の地球温暖化対策計画(平成28年5月閣議決定)では、日本政府としてICTを利用した情報開示の基盤整備や、ESG投資を金融面から促進するための取組を進めると記載している。J-SUSにも関係深い事業であり、ぜひ参加されたい。

 

 

★1 eXtensible Business Reporting Language 
★2 これには2年目からみずほ情報総研㈱も参画。
★3 CDP(シー・ディ・ピイ) 英国に本部を持つ開示基盤NGO
★4 GRI Global Reporting Initiative 現在はオランダに本拠を置きサステナビリティ・レポーティング・ガイドラインを発行。今秋ディファクト・スタンダード化への転換を図っている。
★5 「2014 Global Sustainable Investment Review」 GSIA (GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT ALLIANCE) 
★6 https://www.envreport.go.jp/portal.html